第6章 住まいに関するお祭り

昔からのしきたりには意味があります

[地鎮祭(じちんさい )]

一、なぜしなければいけないの?

 地鎮祭は、「とこしずめのまつり」といいますが、普通は「じちんさい」または「じまつり」ともいいます。建物の新築、土木工事などの起工に際して、その土地の守り神である産土大神(うぶすなのおおかみ、氏神さま)、大地を守護する神である大地主大神(おおとこぬしのおおかみ)、土を守護する神である埴山姫大神(はにやまひめのおおかみ)をまつり、工事の安全を祈願するお祭りです。
 祭場は一般的に土地の中央を使用し、清浄な場所を示すための斎竹(いみだけ、葉のついた青竹)を四隅に立てて注連縄(しめなわ)を張ります。その中央に神籬(ひもろぎ、榊に麻と紙垂(しで)をつけたもの)を立てて神さまの依り代(よりしろ、神さまの降りられる所)とします。
 祭儀(さいぎ)は、修祓(しゅばつ)・降神(こうしん、神さまをお招きする)・献饌(けんせん、神饌(しんせん)を供える)・祝詞奏上・散供(さんく)・地鎮行事(じちんぎょうじ)・玉串拝礼・撤饌(てっせん、神饌を下げる)・昇神(しょうしん、神さまをお送りする)というのが一般的です。
 大地は、小さな虫から動物・草木までも生かす大きな力を持っています。その土地を人間が使うのですから、その恵みに感謝することが大切なのです。
 土地の神々に敬意をはらい、使用の許しを得て工事の安全と生活の平安を祈願するという祭りの意味は、まさに日本人の生活習慣における伝統や信仰に基づいたものといえます。

二、申込みや準備はどうするの?

 実施する時期は一般に大安(たいあん)の日が良いとされていますが、神道では昔から「選んだその日が吉日(きちじつ)」という考え方があり、仏滅(ぶつめつ)以外でしたらあまり気にされることはありません、神職とよく相談して決めて下さい。
 大方の皆さんにとって一生に一度の大事な儀式ですから、休みが取れないなどと言わず、休暇をとってお祭りに臨むぐらいの心構えを持ちたいものです。
 普通は、その土地をおさめている神社の神職に申込みます。その際は、次のことをお知らせ下さい。
①祭事名(地鎮祭、上棟祭、竣工祭など)
②建物名(一般住宅、工場、会社事務所など)
③日時
④祭りを行う場所
⑤建主名
⑥設計者名、施工者名(請負する大工さん)
⑦参列者の人数と玉串の本数
⑧祭壇などが必要か不要か。などです。
 また、お祭りに必要なものとして、神饌(お供えもの)、葉のついた青竹四本(三メートルぐらい)、注連縄、盛砂、鎌・鍬・鋤(スコップ)、初穂料を準備していただきます。
 神饌(お供えもの)は、本来は建主が用意すべきものです。

一般的な地鎮行事

苅初(かりそめ)の儀 設計者が盛砂に忌鎌(いみかま)で三度草を刈る所作をする
穿初(うがちぞめ)の儀(鍬(くわ)入の儀) 建主が盛砂に忌鍬(いみくわ)で三度土を掘る所作をする。次に、施工業者が盛砂に忌鋤(いみすき)で三度土をならす所作をする。
鎮物埋納(しずめものまいのう) 斎主が鎮物を埋納する儀式

[上棟祭(じょうとうさい )]

一、上棟祭ってどんなお祭りなの?

 上棟祭(じょうとうさい)は「棟上(むねあ)げの祭り」で、単に棟上げ、または建て前ともいいます。このお祭りは、基礎工事が終わって柱が立ち、棟木(むなぎ)を上げる段階になって行われる大切なお祭りです。
 お祭りには、その土地の守り神・氏神さまである「産土大神(うぶすなのおおかみ)」、家屋の守り神である「屋船久久遅神(やふねくくのちのかみ)・屋船豊受姫神(やふねとようけひめのかみ)」、工匠(大工)の守り神である「手置帆負神(たおきほおいのかみ)・彦狭知神(ひこさしりのかみ)」をおまつりします。
 上棟祭の起源については平安末期から鎌倉初期にかけて始まったものとされていますが、一般庶民に普及したのは、江戸時代になってからといわれています。
 建物の新築あるいは増改築などに際し、棟上げまで建築が進んだ感謝の気持ちと、棟木を支える柱をしっかり押さえ崩れ傾くことのないようにという祈り、また、竣工(しゅんこう、落成)にいたるまでのご加護を祈願するお祭りが上棟祭なのです。
 上棟祭は、地鎮祭・竣工祭とならび、建築の三大祭典の一つですが、中でも、この上棟祭は木造建築の上では特に重んじられてきたお祭りです。近年、純粋な木造建築は社寺建築に見ることができますが、一般住居や鉄筋・鉄骨、ビルディングなどの建築の際にも、この伝統が強く残っています。
 上棟祭は、梁(はり)の上に板などを並べて祭場を設け、まず屋上の祭場正面に上棟幣(じょうとうへい)といわれる大きな御幣(ごへい)と弓矢を飾り、その前に神籬(ひもろぎ)を設けて次のような順序で行われます。

修祓(しゅばつ) お祓い・お清めの儀式
降神(こうしん) 神さまをお招きする儀式
献饌(けんせん) 神さまにお供えものをさしあげる儀式
祝詞奏上(のりとそうじょう) 上棟祭を行う主旨を、神職が神さまに申し上げる儀式
上棟行事(じょうとうぎょうじ) ※次頁参照
玉串拝礼(たまぐしはいれい) 神職・参列者が玉串をお供えして拝礼する儀式
撤饌(てっせん) 神さまのお供えものをおさげする儀式
昇神(しょうしん) 神さまにお帰りいただく儀式

二、上棟行事ってどんなことをするの?

 上棟行事には、「槌(つち)打ちの儀」「鳴弦(めいげん)の儀」「散餅散銭(さんぺいさんせん)の儀」があります。「槌打ちの儀」は、棟梁(とうりょう、大工)が「千歳棟(せんざいとう)・万歳棟(まんざいとう)・永永棟(えいえいとう)」と声を発し、棟木(むなぎ)を打ち固める儀式です。「鳴弦の儀」は、まず北東つまり鬼門(きもん)の方角に向いて、弓の弦をひき天に向かって矢を放ちます。次に南西つまり裏鬼門(うらきもん)の方角を向いて、弓の弦(つる)を地に向かってひき矢を放ちます。これは、両鬼門から諸々の災いが入らないように行う儀式です。「散餅散銭の儀」は、屋根の上より餅やお金を撒(ま)くことで、方位の神さまへのお供え物とも、また福をわける意ともいわれています。
 近年は上棟祭のほかに「立柱祭(りっちゅうさい)・定礎祭(ていそさい)」または「金銀鋲締結式(きんぎんびょうていけつしき)」などを行うところもあります。「千歳棟・万歳棟・永永棟」には、千年も万年も永遠に、この棟(家)が何事もなく丈夫で、家族が幸せに過ごせるようにとの願いが込められています。
 上棟祭に欠かすことができないものが「棟札(むなふだ)」です。棟札は、将来のための記録になるものです。後日、造営の日時や関係者などを知ろうとする場合、最もよい資料となります。古来より、建物の記録を残すために用いられてきました。後世への記録として、建物を文化的・技術史的に理解する有力な史料となります。
 棟札の表には「奉鎮祭」、祭神名(神さまの名前)、家屋名を墨書きし、裏には上棟祭を行った年月日、奉仕神職名、関係者の名前などを墨書きします。また工事費などを記録することもあります。

[竣工祭(しゅんこうさい)・新宅祭(しんたくさい)]

一、建てる時にお願いしたのに、出来上がったら知らん顔?

 「竣工祭・新宅祭」は、完成した建物を祓い清め、末永く安全堅固であることと、その建物に住む人々の繁栄を祈願するお祭りです。
 おまつりする神さまは、上棟祭の場合と同じで、その土地の守り神・氏神さまである「産土大神(うぶすなのおおかみ)」、家屋の守り神である「屋船久久遅神(やふねくくのちのかみ)・屋船豊受姫神(やふねとようけひめのかみ)」、工匠(大工)の守り神である「手置帆負神(たおきほおいのかみ)・彦狭知神(ひこさしりのかみ)」をおまつりします。
 地鎮祭で工事の無事を祈ったのですから、工事が無事に終わったならば、そのことを神さまに感謝し奉告しなければなりません。
 一般住宅と公共建物・会社などでは、建物の構造、規模、神棚の有無、参列者の多少などで違いはあっても、お祭りの趣向は変わりません。
 意外に忘れられているのが、御礼参りです。
 地鎮祭・上棟祭・竣工祭を終えた建築主は、最後には地元の神社に出かけ、家屋の建築工事が無事終了した旨の報告と、今後の家族の安泰を祈願して、御礼参りすることが大事です。
 一生に一度の重儀である家の造作に際しては、真心を込めて感謝の意を表します。

二、竣工祭・新宅祭はどこでするの?

 一般住宅の場合は、家の中心となる座敷の床の間、または神棚のある部屋で行います。公共建物・会社などの場合は、役員室や社長室などの神棚を設けるべき部屋が望ましいですが、工事関係者などが多い場合は、会議室や講堂などを用い、斎竹(いみだけ)を立てた祭場を設けて行います。
 新築した家・会社などを祓い清め、工事が無事に終わり、立派に完成したことを神さまに奉告し、家庭の安全や会社の繁栄を祈ります。また、この際に神棚に宮形(みやがた)を設けて、家庭の平安をお守りいただく神さまをおまつりすることが大切です。
 家庭において宮形をまつるということは、そこに住む家族だけではなく、日々の生活が神さまとともにあって、家族一人一人の幸福はもとより家庭の安泰のために必要なことです。

三、神棚を取り付ける時って何に注意するの?

 新たに神棚の設ける場合は、家の新築や転居の際、また事務所を新しく開いたりする場合が多いと思いますが、家庭においても基本的な違いはありません。
 家庭においては、座敷が一般的ですが、最近では床の間付き座敷も少なくなりましたので、家族がお参りしやすいリビングルームでも結構です。また二階のある家やアパート・マンションなどの場合は、人が神棚の上を歩くような場所は避けるようにして下さい。やむを得ずこのような場所に神棚を設置する場合は、神棚と天井の間に、もう一枚板を張るか、その天井に「雲」とか「空」という字を墨で書いた紙を貼ることもあります。
 神棚の位置ですが、「清らかで明るく高いところに南向き」というのが原則です。家族がお供えをしたり、拝(おが)むのに都合のよい場所であることが大切です。南向きが難しい場合は、東向きでも構いません。ただし、いくら方向が良くても、人の出入りする場所の上、たとえばドアの上や障子(しょうじ)・襖(ふすま)の鴨居(かもい)の上に神棚を設けるのはよくありません。これらの条件を総合的に考えて、神棚をおまつりする場所を決めるのですが、どうしても決めかねるときは、神職の指導を受けて下さい。
 建物が完全に出来上がってから神棚を設けようとしたところ、適当な場所がないということが多くあります。また、間取りや神棚の位置など、家相・方位のおかしい場合もあります。家相・方位は大切なことですから、設計または地鎮祭をお願いする段階で位置や大きさを考慮してほしいものです。

四、中古住宅でもお祭りをするの?

 中古住宅や中古マンションを購入され、あるいは入居するに際しては、新築ではなくとも、新しく神棚に宮形を設けます。
 やはり、購入・入居の経緯を神さまに報告し、新生活の平安をお祈りすることは、新築の場合と同様です。新築・中古を問わず、さまざまな関係者の手を経て入居・居住するのですから、神職によるお祓いを受け、すがすがしい日常をおくることが大切です。
 ここでも、入居に際しては地元の神社へお参りをし、入居の報告とともに、家内安全をあわせてご祈願したいものです。

[建物の解体清祓(かいたいきよはらい)・その他のお祭り]

一、「解体清祓」ってどんなお祭りなの?

 建築に関するお祭りで意外に忘れがちなお祭りが、取り壊しのお祭りです。
 古くなった建物を壊すにあたって行われるお祭りが「解体清祓(かいたいきよはらい)」や「取り壊し始祭」と呼ばれるお祭りです。まず建物を祓い清め、家屋の守り神である屋船久久遅神(やふねくくのちのかみ)と屋船豊受姫神(やふねとようけひめのかみ)に対して、これまで長年にわたり、何事もなく無事に過ごさせていただいた感謝の気持ちを表すとともに、取り壊しの事情を奉告し、また、お許しをいただき、解体工事がすみやかに無事終了するように祈願するお祭りです。

二、増築・改築でもお祭りはするの?

 建築に関するお祭り全般にいえることですが、日常生活に密接に関わっている家屋や屋敷地内に手を加える造作などに際しては、それぞれをつかさどる神さまに対して、工事にいたる事情を奉告し、工事の安全はもとより平安な生活を送るための祈りを捧げるおまつりが必要となります。
 また、建物・敷地の構造物が変わるということは、その家の家相にも影響を及ぼしますので、古来より注意を要するものとされてきました。清々(すがすが)しい新生活を送るためにもきちんとしたお祓いを受けなければなりません。

三、井戸を埋める時はどうするの?

 今日では上水道の普及と地下水の衛生面からあまり使われることがなくなった井戸も、少し前までは大事に扱われていました。井戸を埋めるのにあたってはもちろんのこと、敷地内に古井戸の跡がある場合にも、工事を始めるに際しては必ず井戸埋めのお祓いを行います。長い間、水の恵みを与えて下さった水の神さま「弥都波能売神(みつはのめのかみ)・御井神(みいのかみ)」に井戸を埋める事を奉告すると共に、御神徳に感謝し、今後も災いがないよう祈願をします。
 便所の取り壊しや埋め戻しなどにおいても、同様のことがいえます。

四、「門・塀」「池」などのお祭りがあるの?

 門や塀は敷地を外界と隔(へだ)てる役割をもっております。神社でいえば鳥居や神門にあたります。取り壊しや建て始めに際しては、その事情を奉告し工事の安全などをご祈願します。
 また、邸内の池の作事や埋め戻しに対しても、水の神さまにその事情の奉告をおこない、工事の安全と家庭生活の平安をお祈りします。築山(つきやま)や庭石などの造作についても同様のことがいえます。

五、庭の木を切るときにお祓いは必要なの?

 一般に樹木や草木には、精霊が宿るとされております。樹木や岩石は、神の依り代(よりしろ)として古くから広く信仰されています。国土の大半を森林が占めている日本は、樹木と密接なつながりを保ちながら豊かな文化を育んできました。
 「木」の語源は「生(き)」で、生成繁茂する様子によるとの説もあるように、樹木は生命力を象徴するものとして大切にされてきたのです。樹木を神聖視する例は古くから世界中にありますが、それを現代にまで引き継いでいるのは日本だけかもしれません。自然環境の保護が叫ばれる今、祖先から守り伝えてきたこの誇るべき財産を、未来に確実に伝えていきたいものです。
 神社の森はもちろんのこと、屋敷内の大木などをやむを得ず伐採するときには、樹木に宿る木霊(こだま)に感謝し、鎮まっていただくために、神職によるお祓いを行います

鎮守(ちんじゅ)の森を守り、育てよう!

 森とは、たんに木が集まっただけではなく、幾種類もの樹種、野鳥や昆虫、地中の小動物群、微生物などいろいろな生き物が生きている共同体社会です。
 日本列島では約二千年前に稲作が始まりました。森を切り開き耕地整理をし、道路や集落を形成してきました。しかし、私たちの祖先はその際にも、かならずふるさとの木による森を残しました。それが鎮守の森なのです。
 「鎮守」とは、その土地の地霊をなごめ、その地を守護する神さまです。その言葉通り、鎮守の森は地震、台風などの自然災害から、私たちを守ってきました。さらに神社を守ることによって文化を伝えてきました。
 鎮守の森は強いものです。荒れ地には一気にはびこるセイタカアワダチソウなどの帰化植物も鎮守の森には侵入できません。かつては日本中の樹木を食い荒らすと恐れられていたアメリカシロヒトリも、鎮守の森には歯が立ちません。
 またスギやヒノキなどを人工的に植えた森では、常時、人間が手を入れてやらねばなりませんが、その土地本来の樹木でできた鎮守の森は、そんな必要はありません。鎮守の森は千年の森なのです。
 鎮守の森を育み、守り伝えていきましょう!

[家相と方位]

 家相とは、土地の形状や家屋の間取り、方位などがその家に住む人に影響を与えるという考えにより吉凶禍福(きっきょうかふく)を判断する基準となる考え方のことです。これは古代中国の陰陽五行説(おんようごぎょうせつ)に由来し、経験的な知識や民間信仰なども交えたものでした。
 また、古くから都市選定の際に「四神相応」という地相が理想的な場所として重視されたことも、この考えに基づきます。四神とは東の方角を司(つかさど)り、水の流れを意味する「青龍(せいりゅう)」、南を司り窪地を意味する「朱雀(すざく)」、西を司り大道を意味する「白虎(びゃっこ)」、北を司り丘陵を意味する「玄武(げんぶ)」の聖獣をいいます。
 このような地形が四神の相応(あいおう)じた吉相の土地とされました。平安京(京都)もこうした条件により選ばれたものですが、これには清涼な土地であることや、排水・交通など都市生活に不可欠な諸条件を充たす経験的な知識が背景にあるともいわれています。
 そのほか、北東の方角を「鬼門(きもん)」として忌み嫌います。鬼門とは病疫が出入りし、災いをもたらす方角であるとされ、都市ではその方角に鬼門除(よ)けの社寺を祀(まつ)りました。以上のことは、家屋についても同様で、特に建築に際しては鬼門の方角に玄関や便所、風呂・台所をつくることは避けます。
 このほか、家屋の間取りなどにも詳細な吉凶判断の基準があり、家相は現在でも民間信仰として根強い影響があります。しかし、土地事情により、全ての条件を充(み)たすのはたいへん難しく、致し方のない場合はそれぞれにあった対応を図らなければなりません。いずれにしても家屋を清浄な環境に保ち、家族が円満に暮らすことが何よりも大切なことといえます。
 家相の基本は、人が住む家に、いかに自然の恵みを取り入れるかという点にあります。まず家相では家の中心からみた「方位」によって間取りの吉凶を判断しますが、その部屋を誰が使うのかということも問題にしますので、家という器のみで家相は論じることはできませんし、家相さえよければそれで良し、というわけでもありません。浄(きよ)く正しい心で神さまを敬い、ご先祖さまを尊ぶ心で日々過ごすことが、健康で平安な家庭生活を築く上で大切です。そのために家屋の設計に際しては神職に相談し、きちんとした形でお祓いを受け、神棚をまつるという心構えが必要です。

土用(どよう)

 工事を始めるにあたっては、昔から土用の期間中は避けるようにいわれています。夏の土用はよく知られていますが、この土用というのは夏ばかりではなく、年に四回あります。
 立春・立夏・立秋・立冬のそれぞれ前十八日間を土用と言います。「用」というのは「働き」のことで、土気(土の気)が物を変化させる意味から名づけられています。この期間中は、土を動かしたり、土木工事に着手すること、壁を破ることは大凶です。但し、土用期間中でも行って良い日があります。春は「巳・午・酉の日」、夏は「卯・辰・申の日」、秋は「未・酉・亥の日」、冬は「卯・巳・寅の日」です。この日にお祭りをして工事に着手すれば良いとされています。

コラム

大安、仏滅ってな~に?

 六曜(ろくよう)は、江戸時代後期から庶民の間で盛んに使われるようになり、現代に至っています。六曜とは、「先勝」、「友引」、「先負」、「仏滅」、「大安」、「赤口」の六つからなります。旧暦の時代、六曜は毎年固定していたため、さして見向きもされませんでしたが、新暦になり、旧暦の法則に従って配当されることから、現代人の目には不可解な動きをするものと映り、より神秘性が増したのです。

六曜の順番

 順番は、「先勝」、「友引」、「先負」、「仏滅」、「大安」、「赤口」の順に巡るもので、旧暦の月ごとに朔日(ついたち、一日)の割り当てが決まっており、たとえば旧暦の正月と七月であれば朔日が『先勝』となっています。二日が『友引』、三日が『先負』…と順に配当されます。

各月の割り当て

 各月の割り当ては、次のようになっています。また、閏月(うるうづき)はその前月(本来の月。閏三月であれば三月。)と同じ割り当てになります。

正月・七月の朔日は先勝 四月・十月の朔日は仏滅
二月・八月の朔日は友引 五月・十一月の朔日は大安
三月・九月の朔日は先負 六月・十二月の朔日は赤口

六曜の吉凶

先勝(せんしょう) 先手必勝。急ぐこと吉。午前は吉、午後は凶。
友引(ともびき) 引き分け勝負なし。祝い事吉。葬式等仏事に凶。
先負(せんぷ) 後手有利。急ぐこと凶。午前凶。午後は吉。
仏滅(ぶつめつ) 祝い事は控える。仏事には吉。
大安(たいあん) 万事に吉。ただし有頂天は禁物。
赤口(しゃっこう) 万事控えること。ただし、昼前後は吉。

お祓(はら)いを受けるその日が吉日

 日の吉凶(良し悪し)にはさまざまな見方があり、大安でも悪日があれば、仏滅でも良い日の場合があります。最良の日など年に数えるほどしかありません。現代のようにきぜわしく、しがらみが多い世の中では、日の吉凶にこだわり過ぎると事は進みません。人生儀礼や住まいに関するお祭りに際しては、日にばかりこだわって、お祓(はら)いをされないとなれば本末転倒です。神社では、昔から「お祓いを受けるその日が吉日」といわれています。