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今、我々は諍いをしている場合であろうか ~本庁の総長選任をめぐる混乱の問題点~

2023年1月23日

今、我々は諍いをしている場合であろうか ~本庁の総長選任をめぐる混乱の問題点~

福島県神社庁長 丹 治 正 博

※令和4年6月3日付で神社本庁より各県神社庁長に送付された通知では、総長・副総長が決定に至らず、後任者が就任する時までなお在任するとの解釈がなされている事から、本稿では「田中なお在任総長」との表記をさせて頂く。

 去る12月22日に東京地裁で「田中なお在任総長」に対して、鷹司統理により指名された芦原髙穂氏(北海道神社庁長)が総長の地位にあることの確認を求める訴えは、請求棄却(敗訴)の判決が下された。芦原髙穂氏側は直ちに控訴手続きを取った。
 神社本庁では、いまだに総長が決まらず、地位確認の裁判にまで持ち込まれるという異常な事態が続いている。ここまでの本庁を巡る一連の騒動については、争点が見えづらく、また、「田中なお在任総長」側が、本庁の全神職向け機関誌「若木」や神社新報紙面を使い、自己を正当化するため、かなり偏った論調を展開している。コロナ禍が続き、人との距離をとらなければならない状況だからこそ余計に、人々が世代を超えてつながる神社の伝統行事に力を注がねばならない。今、我々は内輪の諍いをしている場合ではない。事態を静観されている神社関係者に向けて、改めて今何が問題となっているのか、この際、問題点を分かりやすく整理してみたい。そして神社界正常化のための意思を表明して欲しいと切に望むものである。

 1、本庁役員会の議決(多数決)は統理の権限を越えるのか、蔑ろにされる「神社本庁憲章」  
 東京地裁判決から読み取れることは、判決理由中において、神社界の憲法とも言うべき「神社本庁憲章」が完全に無視されていることである。宗教法人にあっては、代表役員選任は文化庁の認証を受けた規則(神社本庁で言うと「庁規」)に基づいて決められる。そして「神社本庁憲章」は宗教法人法に基づく規則ではないため、宗教法人の代表役員の地位を裁判所が判断するにあたって考慮する必要はないという理屈もあり得ないではない。司法の手に委ねればそのような一見“合理的”な判断が導き出される可能性も予想された。しかし、この考え方は、「神社本庁憲章」の「庁規」に対する優位性を無視、または否定するもので、我々神社人には到底容認出来るものではない。
 敢えて「神社本庁憲章」の法規範性に触れずに、司法のお墨付きを得て自らの優位性を主張する、これを「田中なお在任総長」側が意図したとすれば、自らの手で「神社本庁憲章」の権威を踏みにじる、まさに本庁の懲戒対象(「懲戒規程」第1条、第2条2項)となる行為と言わざるを得ない。無関心を決め込んでいる全国の神職各位はこの事態をどう考えるのか。我々の先達たちの魂が込められた神社界の憲法ともいうべき「神社本庁憲章」を踏みにじってでも自分たちの地位を守りたいのであろうか。

2、多数決が全てに優先するのか  
 令和4年5月の本庁評議員会では、満場一致で鷹司氏が統理に推戴された。そして統理様は続く令和4年10月評議員会冒頭のご挨拶で改めて我々の前で芦原髙穂氏を総長に指名する旨明言された。統理様は本庁の将来に強い危機感をお持ちで、「透明性」と「公平性」が確保された正常な本庁運営への回帰を期待され、芦原氏を新総長に指名されたことはまことに重いご決断というべきであろう。
 重い決意をされた統理様を支えて、お考えを体現すべき役員会では、あろうことか9名の理事と総務部長が統理様の新総長指名を認めず、多数決の論理で田中理事の総長再任を迫った。
 神社本庁の業務は、統理の指揮下において実施されており、役員会が多数決での総長決定を統理に迫ることはありえない。裁判所の判断が役員会の決定を支持するとするならば、神社本庁が統理の指揮下で全ての業務を遂行してきたという被包括宗教団体成立以来の事実及び慣習を否定することになり、そうであるならば、逆に全ての業務は総長及び役員会の指揮下で行われてきた事を証明すべきと考える。
 こと総長の選任に関し、統理の意向を無視して多数決に持ち込もうとする今の本庁役員会であるが、役員会を構成し、彼等がこだわる勢力地図を決定する地区理事は、各地区において慣例に則って公正に選任されている筈である。しかし、昨年の改選では東北で異例の事態が起こった。東北地区においては、庁長在任期間が長い順に地区理事を決めてきた慣例があるが、今回の改選においてはこの長い慣例が覆されたのである。福島にとってまさに屈辱の出来事があったことを県内神職は心にお留め頂きたい。

3、長期の体制がもたらしたもの
 長期に亘り役職にとどまることを一概に害悪であると決めつけるべきではない。しかし、「田中なお在任総長」体制の20年間で何が起きたのか、此の間、別表神社6社が本庁を離脱、更に社頭での憲法改正署名やLGBTQ問題など、様々な思想信条の氏子崇敬者に対応しなければならない地方神社の神職を苦境に立たせるという踏み越えてはならぬ一線を越えた政治活動への傾倒、職舎売却にからむ疑惑と、これを内部告発した部長らの懲戒解雇処分等に端を発した裁判は多くの評議員や神社関係者の意向を無視して最高裁まで争われ、しかも、裁判所が当該懲戒解雇を無効とすれば本庁は機能不全に陥り日本の国体が破壊されるなどという荒唐無稽な主張を展開して世間の嘲笑を買い、結果本庁は敗訴、加えて本庁幹部職員による不倫露見、人事委員会ほか各種委員会の不透明な人事など、問題が続発した。地位にあるものは一点の疑いでも持たれれば、潔くその地位を辞することが「恥」を重んじる我が国の国柄であり、神職こそがその体現者ではなかったのか。

4、福島は本庁からの恩義を忘れたのか
 東日本大震災での本庁からの多大な支援には感謝してもし切れぬほどの恩義を感じている。しかし、本庁職員の不祥事を始め職舎問題にからむ疑惑については、責任の所在を問うべきと要望書を提出したにもかかわらず本庁から明確な回答はない。福島は「ならぬことはならぬものです」(会津藩什の掟)の精神で対応してきたのである。神社界は「恩義」は忘れずとも、縁故や利害に縛られず、浄明正直を旨とし、自由な意見を表明し合える場でなくてはならない、と信ずるからにほかならない。

5、花菖蒲ノ會(はなしょうぶのかい)結成の意義
 現在、本庁評議員と全国神社庁長の約半数近くが鷹司統理のご決断を支持申し上げる状況にある。この動きを全国に広げるため、鷹司統理様を支える「花菖蒲ノ會」が結成され、賛同者は間もなく2,000人に達する。此の会は神社界の分断を企図したものではなく、地位や立場にこだわらず開かれた場で意見を交わし合い、神社界の正常化に向けた決意を内外に示そうとする会である。会の運営は任意の賛助金で賄い、会費は不要である。また、入会は強制ではなくまったくの任意である。清らかで開かれた神社界を求むる方々の入会を強く望むものである。