神社庁報

福島県神社庁から皆様へのお知らせなどをご案内しています。

年頭所感

2019年1月7日

年頭所感  福島県神社庁長 丹 治 正 博

平成三十一年己亥歳の年頭にあたり、謹んで新年の御祝詞を申し上げます。
畏くも天皇皇后両陛下におかせられましては、お健やかにて平成の御代最後となる一般参賀にお出ましになられ、大勢の国民の祝意をお受けになられました。竹の園生の弥栄を共々にお祈り申し上げます。

昨年を振り返りますと、例年に増して全国各地で災害に苦しめられた一年でした。夏には記録的な猛暑が続き、週末毎に台風が日本列島を襲い、七月の西日本豪雨は多くの被害をもたらしました。そして忘れてならないのは大きな二つの地震、六月に大阪北部を襲った地震、もう一つは九月に北海道胆振東部地域を襲った地震でありました。被災された地域の皆様には今なお不自由な暮らしを余儀なくされている方もおられます。被災地の皆様には心より御見舞いを申し上げます。
こうした災が続く中でも有難い事、嬉しい事もございました。それは何と言っても福島県における全国植樹祭の開催でありましょう。

■天皇皇后両陛下、全国植樹祭に行幸啓
畏くも天皇皇后両陛下におかせられましては、昨年六月十日の第六十九回全国植樹祭ご臨席のため、六月九日より十一日までの三日間、本県に行幸啓遊ばされました。大震災後、実に六度目となる本県ご訪問に際しましては、神社関係者を中心に奉送迎申し上げましたが、特に十日夜の相馬市松川浦での提灯奉迎行事には、県民約一千三百名で両陛下のご来県に対し、感謝の誠を捧げさせていただきました。不肖私は聖寿萬歳の音頭を執らせて頂きましたこと、此の上無い光栄に存じております。
松川浦では行事の開始まで、絶え間無く小雨が降り続いておりましたが、午後七時四十五分、両陛下がお宿の部屋の窓に立たれる直前に雨が止み、行事終了後まで温かい風が吹きわたったことを鮮明に記憶しております。両陛下のお出ましに、天も感応したものと、まさに神がかりのひとときであったと、参加者一同感激一入でございました。両陛下には提灯奉迎の終了後に、侍従を通じて優渥なる御答礼のお言葉を賜りました。ここに改めてご紹介申し上げます。
「復興途上の大変な時にもかかわらず、大変多くの人に提灯で迎えて下さって有難う。皆さんの灯がとても美しく見えました。此の地も含め、福島の復興が更に進んでゆくことを願っております。遅い時間ですので気を付けて帰られますように。」参加者一同本当に恐懼の至りでございました。

■御即位三十年奉祝記念植樹について
福島県神社庁では、御即位三十年を奉祝する事業の一環として、県内本務神社三百五十社を対象とした鎮守の杜の植樹事業(榊または五葉松を植樹、御即位三十年奉祝の標柱建立)を実施致しましたが、予定を上回る多数のお申し込みを頂き、短期間のうちに成功裡に終えられましたこと、県内神社関係者の皆様方のご協力に感謝を申し上げます。これを機に鎮守の杜の果たす役割が理解され、植樹の輪が広がりを見せることを切に望むものであります。

■御代替りの年に臨むにあたり
神職の矜持を次世代へ
子供の頃に親から受けたさまざまな躾が、大人になってからの生き方に大きな影響を与えることを私たちは経験上知っています。私たちの人格や家柄とは、親から受けついだ目に見えない躾や仕草、人との接し方、御礼の表し方、何気ない癖など「心の相続」が積み重なり形成されます。私たち神職の「矜持」もまた、社家代々の躾と地域の氏子総代との交流から育まれ、醸され、受け継がれてきたものです。最近、自分自身も含め、神職としての自覚と矜持がしっかり継承されているか、と自問自答する機会が増えました。こうした継承は今を生きる私たちの自覚と普段の努力無くして正しく伝わるものではありません。御代替りの慶事を迎えるにあたり、私たち神職は「心の相続」の大事さを自覚し、自ら実践する契機としたいものです。
御即位記念事業の勧め
一世一代の御慶事を寿ぎ、県内各神社においては御即位記念事業を実施する動きがございますが、企画立案にあたっては、以下の点にご留意頂きたいと思います。
1、四月三十日の御譲位までは、今上陛下に配慮申し上げ、表立った動きを抑えつつ、内々に宮司を中心に役員総代間で協議を進めて頂きたい。
2、記念事業の内容については、規模の大小を問わず、各神社の歴史と地域性に根差した独自の事業を計画されたい。
3、実施の時期については、御即位以降、各神社の事情により実施し、期間は数年次に亘る場合も含め、特段の制限は無いものと理解されたい。

■「合祭殿」の建立に向けて ~帰還困難区域に鎮座する神社の信仰を繋ぐ~
東日本大震災より八年が経過しようとしていますが、原子力災害によっていまだに立入りが許されない神社、氏子の帰還が進まない神社が双葉郡内を中心に二百社を越える状況は変わっておりません。
神社庁では、こうした神社の存続のため各方面へ働きかけを続けて参りましたが、昨年、福島県における復興祈念公園に伝統芸能伝承の場所が設置されることが基本計画(案)に盛り込まれたことを受けて、この施設に隣接する高台に鎮座の諏訪神社境内に、原子力災害により立入りが制限されている双葉町、大熊町の帰還困難区域に鎮座して、いまだ祭祀の再開の目処が立たない神社の御分霊を集め祀る「合祭殿」を建立する計画が動き始めました。
国・県が管理する施設での宗教活動は難しいことから、復興祈念公園に隣接する合祭殿で各神社が神事を執り行い、神事芸能を始め、放生会、流鏑馬、山車の引き回し、子ども相撲大会などの稽古、発表を公園内の「子どものお祭り広場」で行う。この方式により、政教分離原則への抵触を回避することが可能となります。
自然災害が多発する日本では、いつ何時何処の神社が被災するか、予測することは出来ません。従来は、行政からの支援を期待することは不可能とされ、神社の復興はインフラの復興に優先され、後回しにされてきました。しかし、神社は地域のコミュニティーの中心であること、集会所機能を果たすこと、付随する神事芸能の継承は、地域の人々の絆を束ねる重要な要素であるとの観点から、宗教色を排除しつつ、行政からの支援を引き出すという、今回の福島県における成果を先進事例として斯界に示すことにより、被災神社の速やかな復興に資すれば幸いです。
今後は、関係者の合意と協力を得つつ、今年度中の着工に向けて進めて参る所存です。

■結びに
今上陛下におかせられては、御即位三十年を迎えられ、私共国民は昨年一年間、さまざまな場面で奉祝の意を表して参りました。両陛下には本年の四月三十日にご譲位を迎えられ、いよいよ御代替りを迎えます。御代替りの諸儀式が伝統に則り、古式の儘に執り行われることを切望しつつ、神社界挙げて奉祝の誠を捧げたいと存じます。