神社ものしり事典

御神徳や御祈祷の紹介、神道の歴史や神話などをご紹介します。

第11章 人生儀礼
やってみればわかります その大切さ

[大人の儀礼]

一、成人式

大人になるって、どういうこと?

 成人式とは、子供の段階から大人の社会へ仲間入りするための儀礼をいいます。昔、男子は十五歳前後になると、衣服を改めて冠をかぶる「元服加冠(げんぷくかかん)」の儀式を行い、大人になったことを祝いました。女子は髪を初めて結い上げる「髪上げ」の儀式をもって大人になった証(あかし)としました。これが成人式の始まりといわれています。
 私たちが日常使っている「冠婚葬祭(かんこんそうさい)」という言葉の「冠」はここから来ており、成人式がいかに重要な儀式であるかうかがえます。
 神さまのご加護(かご)によって、無事に二十歳(はたち)を迎える事ができたのですから、まずは地元の神社に詣で、感謝の心で成人報告をし、今後のご守護をお祈りするご祈祷を受けることが古来の慣(なら)わしです。そして、今後の人生を、自分の責任と努力によって切り拓き、自立した社会人としてのつとめを自覚し、より良い社会を築くために、世の為、人の為に尽くすことを誓う日が成人式なのです。
 「成人の日」は、昭和二十三年に「大人になったことを自覚し、みずから生き抜こうとする青年を祝い励ます」との趣旨のもと、国の祝日に定められました。しかし、昨今の成人式では、この主旨と厳粛さを新成人自らが否定するような事態が全国各地で起きています。式に出席する若者が、外見だけは晴れ着で着飾って一人前の大人のように装っていても、久し振りに再会した友人との談笑に興じるあまり、式典を主催する自治体の長の式辞や講演に関心を示さず馬鹿騒ぎをして、自分自身のモラルの低さを露見させる場になっていることは残念なことです。
 成人を迎える若者には、「素敵な人」になってもらいたいと思います。「素敵な人」とは、年配の人からも、後輩からも、あらゆる人から見て魅力がある人のことをいいます。そのためには、相手に不快な思いをさせない気配りや、思いやりの心をもって自分の内面を磨き、高めることが大切です。自分と気の合う同じ世代の友達とばかり付き合っていては、こうした人間として一番大切な感性が養われません。社会では、さまざまな世代の人たちとの交流が不可欠です。成人式を契機に、「素敵な人」を目指す誓いを立てて欲しいものです。

二、神前結婚式

イザナギ、イザナミの神さまのことを知れば、結婚の意義もわかります

 『古事記』という日本最古の書物の中に書かれている神話には、日本の国の成り立ちからの出来事が伝えられています。この中に伊邪那岐(いざなぎ)、伊邪那美(いざなみ)、男女のお二人の神さまは、天上の神々が示された「この未完成な国を立派なものにしなさい」とのお言葉によって、地上の「おのごろ島」に降りられたとき、そこに宮殿を建て、「天の御柱(あめのみはしら)」という天にまで届く聖なる柱を巡って結婚の儀が執り行われ、そこから日本の国土や山川草木をお生みになったと伝えられています。  現在の神前結婚式は、その神話の精神を受け継いでいるのです。すなわち、神前で結婚式を挙げることは、神話に伝えられる日本の発展の基礎を固められた、伊邪那岐、伊邪那美の二柱の神さまのご結婚と同じ意味、使命を持つものと考えられ、長い人生を共に助け合いながら社会に貢献して行くことを神さまにお誓いする、人生の最も大きな節目としての意義があります。  神前結婚式の形が整えられたのは、室町時代からといわれています。ただそれは現在のように神社や結婚式場の儀式殿で行われるのではなく、各家庭の床の間がある座敷において行われていました。平安時代の宮廷、貴族の間で執り行われてきた結婚の儀式は、今日の皇室のご婚儀に受け継がれていますが、一般には、家々の床の間のある座敷において行われていたのです。床の間には伊邪那岐、伊邪那美の二神、或いは天照大御神、大国主命等の神名を記した掛け軸を掛け、その前にお祝いの品や種々のお供物を供え、その前で神酒を戴いて夫婦の固めの盃を交わす形のもので、公家や大名から一般民衆にも普及し、長く明治時代に至るまでの一般的な結婚式の形態でした。現在広く行われている結婚式の形式は、明治三十三年、当時の皇太子殿下(後の大正天皇)と九条節子姫(後の貞明皇后)のご成婚に始まります。宮中の歴史においてはじめて賢所(かしこどころ、天照大御神さまをおまつりする御殿)の神前で婚儀が行われ、この皇室のご婚儀を契機として民間においても、神社の神前で執り行われる神前結婚式が生まれ、それが次第に普及し現在のように定着してきたのです。

神前結婚式

 古くからのしきたりである結納を経て、先ずは神社や結婚式場に予約をします。大安や友引、先勝等の吉日を選びます。神前でお祓いを受け、祝詞を奏上していただき、三々九度(さんさんくど)の盃を交わした後、新郎新婦は誓詞を読み上げ、神前に生涯の愛を誓います。親族固めの盃を交わし、結婚が二人の間だけのことではなく、両親や親族に支えられ今の自分たちがあることに感謝します。真の日本人として、地域社会の一員として認めてもらう大切な儀式であることを自覚します。
 近年、様々な形の結婚式が行われていますが、氏神さまに見守られ成長し結婚するわけですから、伝統と格式のある日本古来の神前結婚式を和装で挙げるのが最善といえます。
 文金高島田に角隠し(つのかくし)・白無垢(しろむく)姿の花嫁衣裳に込められた思いは、純真無垢な気持ちで嫁(とつ)ぎ、やさしい気持ちを持って、一日も早く嫁ぎ先の家風になじみ、幸せな一生を過ごせるようにとの願いが込められているのです。

三、厄年(やくどし)と厄祓い(やくばらい)

大切な人生の節目

 厄年とは、災難に遭遇したり、病気にかかったり、事故にあうなど、身辺に不幸や災いが起きやすい年齢のことをいいます。数え年で、男は十三歳、二十五歳、四十二歳、六十一歳。女は十三歳、十九歳、三十三歳、三十七歳、六十一歳といわれ、特に男の四十二歳、女の三十三歳は「大厄」ともいわれています。もともとは、中国から渡来した陰陽道(おんみょうどう)の影響によるもので、室町時代からは公家や武家社会で信じられ、近世になって民間に広がったものです。四十二歳が「死に」三十三歳が「散々」と呼ぶなど、言葉遊びの要素もふくまれることから、この年齢が定着したのは江戸時代のことと考えられています。厄年とは、私たちの祖先が永年にわたる営みを通して心と身体の調子が不安定になる年齢というものを体得し、我々子孫にまで伝えられてきた社会的慣習のことです。
 男女の十三歳は、昔なら一人前とみなされ、子どもから大人の入り口に差し掛かる頃であり、身体の調和がうまく取れない時期といえます。女性の厄年からいえば、十九歳は思春期の心も身体も不安定な時期であり、また三十三歳といえば出産も一段落し、母体が変調をきたす時期といえます。また、男性の厄年でいえば、二十五歳は社会に出て最初の試練にさらされる頃であり、四十二歳は働き盛りで知らず知らずの内に無理を重ねる年頃です。そして男女の還暦である六十一歳は、定年を迎え社会の一線から退き、疲れの出る頃とされています。これらの厄年は医学的に見ても人の一生の心身の周期に合っており、理に適っているのです。
 厄祓いは数え年で行います。今は誕生日が来ると歳を重ねますが、古来より、お正月に年神さまをお迎えして、この一年の幸福をいただくのが年の始まりとされ、そのときに歳を取ると考えられていました。したがって元旦から厄年に入りますので、お正月に厄祓いをするのが慣わしです。遅くとも節分までに行うのが一般的です。
 特に男性四十二歳、女性三十三歳は大厄といわれ、その前後の年を、前厄、後厄といい、前厄から三年間は神社で厄祓いのご祈祷を受けます。厄年の期間は「祈り」「慎み」の心を持って過ごすことが大切です。

四、方位除け(ほういよけ)

迷信・気休めではありません 自然の摂理に基づいています

 私たちの日常で、にっちもさっちも行かない状態を「八方塞(ふさ)がり」だとか「この方角は鬼門(きもん)だ」更には「年回りが悪い」等といいます。家相や方角、そして年回りから来るあらゆる災いを除く祈願が方位除けです。
 現代の社会では、必ずしも地相や家相にかなった家を建てることは容易ではありませんし、家の引越し、増改築、旅行などによって、知らず知らずのうちに悪いとされる方位を犯しながら日常生活の中で事に当たらなくてはならないことが多々あります。
 「八方塞がり・鬼門・病門」の年に当たっている方は、年回りによる祟(たた)りや障りがあるといわれ、厄年と同様にお正月に方位除けのご祈祷を受け、一切の災いをお祓いし、安心して一年を過ごされるとよいでしょう。

五、長寿のお祝い

古稀(こき)・喜寿(きじゅ)・米寿(べいじゅ)どんな意味があるの?

古稀(こき)・喜寿(きじゅ)・米寿(べいじゅ)どんな意味があるの? 父母、祖父母たちをはじめ、一家のものが長寿であることほど、おめでたいことはありません。家族一同揃って長寿を寿(ことほ)ぐとともに神社に参拝し、平素のご加護に感謝し益々壮健で長生きするよう祈願いたしましょう。長寿の祝いとは、年祝いとも言います。中国より伝来した頃は、四十の初老の賀から始まり、以後十年ごとに九十賀まで祝いました。奈良時代には貴族の間で長寿を祝うしきたりができ、室町時代に入ると、このほかに六十一歳、七十七歳、八十八歳、九十九歳、などにも、それぞれ祝いの意味を持たせて、日本的なお祝いをするようになりました。そして江戸時代に入ると民間でも盛んに行われるようになりました。  人生経験豊かな年長者に敬意を表し、ますますの健康と更なる長寿を願って盛大にお祝いを致します。

【長寿のお祝いの年齢とそのいわれ】

「還暦(かんれき)」六十一歳 還暦の字のとおり子、丑等の十二支(じゅうにし)と甲乙丙などの十干(じっかん)が生れた時と同じになる、つまり暦が元に戻ることから名付けられたもので、生まれた年の干支を「本卦(ほんけ)」ともいい、「本卦がえり」ともいいます。
「古稀(こき)」七十歳 中国の詩人・杜甫の詩「人生七十年古来稀なり」から取った名称です。
「喜寿(きじゅ)」七十七歳 喜びという字の草書体が七十七と読めることから「喜字の祝い」ともいわれます。扇子に「喜」の字を書いて贈る習慣もあります。
「傘寿(さんじゅ)」八十歳 傘の略字が八十に読めることからきています。
「米寿(べいじゅ)」八十八歳 米の字を分解すると八十八になることからきています。
「卒寿(そつじゅ)」九十歳 卒の略字が九十と読めることからきています。
「白寿(はくじゅ)」九十九歳 「百」という字から一番上の一を取ると「白」になることから、百引く一で九十九歳をいいます。
「上寿(じょうじゅ)」百 歳 このうえない長寿という意味で百歳以上のお祝いをさします。

六、人生儀礼・お祝い・厄年一覧表

※子供のお祝い

妊娠五ヶ月目 帯祝い
生後七日目 お七夜・命名
生後一ヵ月目 初宮参り・女の子
生後百日目 お食い初め
一歳前 初節句
一歳 初誕生
三歳から五歳 保育園・幼稚園入園・勧学祭
三歳・五歳・七歳 七五三祝
六歳 小学校入学・勧学祭
十二歳 中学校入学・勧学祭
十三歳 十三参り
十五歳 中学卒業・高校入試合格祈願・高校入学・勧学祭
十八歳 高校卒業・就職・大学合格祈願
十九歳 女子厄年

※大人のお祝い

二十歳 成人式
二十五歳 男性厄年
三十二歳 女性前厄
三十三歳 女性大厄
三十四歳
女性後厄
三十七歳 女性厄年
四十一歳 男性前厄
四十二歳 男性大厄
四十三歳 男性後厄
六十一歳 還暦
七十歳 古稀
七十七歳 喜寿
八十歳 傘寿
八十八歳 米寿
九十歳 卒寿
九十九歳 白寿
百歳 上寿・百賀