第2章 神社のお話

一、氏神(うじがみ)さま 産土(うぶすな)さま

私たちは絶えず守られています

 氏神さまは、本来その氏(うじ、一族)の守り神で、その氏の繁栄のために、何かあれば知らせてくれ、常に子孫を守ってくれる神さまと考えられています。
 ですから、ほかに移住する場合などは、何をおいても氏神さまは持っていきました。ご祭神は大山祇(おおやまづみ)の神とか熊野の神とか稲荷の神とか伝えられている場合もありますが、もともとはその氏のご先祖様に対する信仰が始まりで、特定の名前など無かったと思われます。家々には名こそ無くても、氏神さまが立派にいらっしゃったのです。
 今でも仏式で、三十三回忌や五十回忌などを最終の法要として、そのあとは仏が氏神さまになるのだとして、仏式の法事は止めてしまうところが多いのはそのためです。
 現在では、氏神さまとその土地を守護する産土(うぶすな)の神さまが、同一に考えられるようになりました。

二、狛犬(こまいぬ)

阿吽(あうん)の呼吸って、ここからきているの?

 狛犬は、一方は口を開け、もう一方は口を閉じていて、「阿吽(あうん)」を表わしています。相撲などでも阿吽の呼吸が合うなどといいますが、両者の気持ちが通じ合う以心伝心の意味なのです。ですから、狛犬は「阿吽の呼吸」で神さまにお仕えしているというわけです
 狛犬の形もいろいろありますが、たいがいは左右一対になっていて、社殿に向かって右側が雄で口を開けています。左側が雌で口を閉じています。

三、参道(さんどう)

表があれば裏もある 北があれば南もある これなーに?

 参道とは、文字通り「お参りする道」で、神さまのお鎮まりになる所と人とを結びつける大切な道です。たとえわずかな距離にすぎない参道であったとしても、神さまのお鎮まりになる所へ一歩一歩近づくわけですから、敬虔(けいけん)な気持ちで進むようにしていただきたいと思います。
 表参道、裏参道、北参道、南参道、東参道、西参道など、参入する方角で様々な呼び方があります。

四、鳥居(とりい)

なんのためにあるの?

 「鳥居」は神社の象徴となっていますが、これは神社の入口に建つ一種の門であり、神さまの聖域と人間世界との境界を示すものです。
 大きな神社では、たいがい二つ以上の鳥居がありますが、その場合は外側にある鳥居から順に一(いち)の鳥居(とりい)・二(に)の鳥居(とりい)・三(さん)の鳥居(とりい)と呼んでいます。
 鳥居の起源については、はっきりわかってはいませんが、古事記の「天岩戸開(あまのいわとびら)き」では、天照大御神(あまてらすおおみかみ)が岩戸に隠れたとき、鶏(にわとり、常世(とこよ)の長鳴き鳥)を止まり木で鳴かせたところ、それによって大御神が岩戸から出てこられたことから、以後神前には鶏の止まり木をつくるようになり、それが鳥居になったといわれています。また語源については「通り入る」とか「鶏が居る」と書いて「鶏居」という言葉が変化したものと言われています。
 普通、鳥居の構造は、二本の柱と柱の上に乗せた「笠木(かさぎ)」と、その下に水平に通された「貫(ぬき)」という横木からなっています。材質は、古くから檜や杉などを用いた木造でしたが、後世には石造り・銅造り・コンクリート造りなどもできました。また、一見したところ同じように見える形にも、神明(しんめい)鳥居・鹿島(かしま)鳥居・春日(かすが)鳥居・八幡(はちまん)鳥居・明神(みょうじん)鳥居・稲荷(いなり)鳥居などの種類があります。

五、しめ縄

なんのために張るの?

 しめ縄は、七五三縄、注連縄とも書き、鳥居以外にも神社の様々なところに張ってあります。これは清浄(神聖)な場所の境界を示すものです。神社はその境内自体が清浄なところですが、中でも特に清浄を保つべきところにしめ縄を張るのです。しめ縄は普通の縄のようにみえますが、縄をなうときに「左綯(な)い」といって通常の逆になっています。そこに紙垂(しで)という紙をつけます。紙垂は、昔は麻や木綿などが多かったのですが、今では紙を用いたものが大半です。
 しめ縄の歴史は古く、古事記の中の「天岩戸開き」に出てきますが、聖と俗を画(かく)す境界線と考えたら良いと思います。家の神棚にも、地鎮祭など神社以外の場所でお祭りを行なう時にもしめ縄が張られます。

六、ご神木(しんぼく)

神さまの宿っている木なの?

 その神社だけに生育している木であるとか、神社にゆかりのある木、ひときわ目立つ巨木あるいは老木を「ご神木」としておまつりしています。ご神木にはしめ縄を張ったり、柵をめぐらしているところもあります。また、ご神木を御神体としている神社もあります。古来より、ご神木は神さまの宿る所であるとか、神さまの降臨するところとされています。ご神木の種類としては、常緑樹の杉や松、榊(さかき)などがあり、中でも榊は代表的なご神木とされ、神事にも多く用いられています。

七、燈籠(とうろう)

ただの照明器具ではありません

 神さまの所在を表示し、また神さまに「おあかり」をたてまつるために火をともす器具を燈籠といいます。社殿の内外、参道に立てられたり、懸(か)けられたりします。燈籠は本来、明りをともす道具ですが、奈良の春日大社等のような沢山の燈籠は、人々が祈願のためご守護を願ったり、または神恩に感謝するために奉納されたもので、奉納者の名前や年号が刻まれています。

八、手水舎(てみずしゃ)

お参り前に必ずしなければならない約束事

 神社にお参りする前に手と口を清めて、それから参拝するのが、神社参拝の作法です。この手と口を清めるところが手水舎です。
 手水は手や口をすすぐことによって、心身全てをきれいにする象徴的な行為で、禊(みそぎ)の一種と考えればよいでしょう。古くは神社に参拝するときには禊といって、海や川に入ったり、水をかぶったりして、身についている罪・穢(けが)れを祓(はら)ってきました。手水は、その簡略化された行為なのです。
 罪については『延喜式(えんぎしき)』という平安時代の法律書中に詳しく記述されていますが、主に天津罪(あまつつみ)として農耕を妨害する行為、国津罪(くにつつみ)として傷害や不倫、姦淫(かんいん)、他人を呪(のろ)うことなど反社会的行為が挙げられます。穢(けが)れとは「浄明正直」の言葉で表されることに反することが自らの身につく状態を指し、死、病など非日常的なことにより受動的に起こる現象と考えられています。

九、鈴(すず)

お参りする時振るのはなぜ?

 お参りするときに鈴を鳴らしますが、鈴は古くより神聖なものとして神事に用いられていました。
 美しい音色で神さまをおなぐさめし、同時に参拝する人々にも、すがすがしい気持ちを与えることから用いられるようになったのです。また、お参りに来たことを神さまにお知らせする意味もあります。

十、神社の建物

どこに神さまがいるの?

 一口に神社といっても、伊勢の神宮のように広大なものから村の鎮守さままで、その規模は実に様々です。神社は、神さまをおまつりするところであり、そのための建物のあるところを総称していいます。
 建物は、奥から神さまが鎮まっておられる本殿(ほんでん)、お供え物をする幣殿(へいでん)、儀式を行う拝殿(はいでん)があります。規模の大きい神社では、神楽殿(かぐらでん)や社務所、参集殿(さんしゅうでん)などがあります。
 一番奥にあって扉が閉まっているところを本殿といって、御扉(みとびら)の中に神さま(ご神体)がおまつりされています。拝殿は、お祭りや正式参拝やご祈祷の際に参列するところです。

十一、ご神鏡(しんきょう)

なぜ丸いの?

 丸は欠ける所がない完全な形を意味するとか、縁起がよいとかいわれています。鏡は昔からお祭りにおいて、祭具の中でも特に大きな役割を担ってきました。『日本書紀』には天照大御神が天孫降臨の際、八咫(やた)の鏡を授けられて「吾(われ)を視(み)るがごとく齋(いつ)きまつれ」と仰せられましたが、これは神さまのお姿は目に見えませんが、「この鏡を神さま自身と思ってお祭りしなさい」ということなのです。単に物理的に視力で見るのではなく、心眼をしかと見開いて見よということなのです。鏡と対面するということは、そこに映っている自分の姿を見るとともに、心の内面を深く反省し、清らかな心で神さまと向かい合うことなのです。
 神話の「天岩戸開き」で、天照大御神が鏡に映ったご自分の姿をみて驚いて、「私のような神さまが、もうひとかたおられるのだろうか」と思われたという話しがあります。

十二、ご神体

見てみたいけど、神社にご開帳ってないの?

 ご神体とは、神さまの御霊(みたま)がお鎮まりになる大切なもので、「依り代(よりしろ)」ともいいます。山や川・石など自然の造形物から、鏡・刀・曲玉(まがたま)など人工の造形物まで千差万別です。有名なところでは、富士山や那智の滝などがあげられます。三種の神器もご神体の一つです。
 神社の本殿にまつられているご神体は、人には見えないほうが清浄で奥ゆかしくて、ありがたいと考えることから、一般に見せるようなことはしません。

十三、直会(なおらい)

宴会ではありません

 直会は「直(なお)りあう」からきたといわれます。祭典中の緊張した特別の状況から、気持ちを解きほぐし、平常の状態に戻すための大切な行事です。  神さまにお供えした神饌を、祭典終了後にお下げして、皆でいただきます。神さまのお供えをいただくことは、神さまの力をわけていただくことにもなります。  厄祓(やくばらい)などのご祈祷(きとう)の際にも、簡略化された直会として、御神酒(おみき)をいただくことが一般的ですが、これは日本酒が神饌の中でも最も重要な米から造られるものであり、その場ですぐにいただくことができるため、直会の象徴としておこなうのです。

十四、ご神紋

あなたの氏神さまの紋は?

各家庭の家紋と同じようにそれぞれの神社にも紋章が用いられており、これを神紋(しんもん)と称しております。
 神紋の成立に関して、いくつかに分類することができます。
 まず一つは、神社に縁の深い神木などの植物、祭器具などを模したものが神紋として用いられる場合で、大神(おおみわ)神社の「神杉」などを例にあげることができます。
 二つ目は、伝説や伝承に基づくもので、菅原道真公をまつる天満宮の「梅紋」は、道真公が生前に梅の花をこよなく愛でたという伝承により、神紋として用いられたものといわれます。
 三つ目は、家紋から転用されたもので、これは歴史上の人物をおまつりする神社に見られるものです。徳川家康公をおまつりする東照宮では、徳川家の家紋である葵の紋が神紋となっています。
 このほかにも、さまざまな紋様が用いられており、人々の篤い信仰と歴史的背景をしめす象徴ということができます。

十五、お神輿(みこし)

神さまの乗り物 なぜ担ぐの? なぜ振るの?

 神社の大きなお祭りでは、お神輿や山車が練り歩くことがあります。この時に神さまはお神輿や山車にお遷(うつ)りになり、氏子区域を巡ります。お神輿が練り歩くことを渡御(とぎょ)または神幸(しんこう)といい、行列のことを渡御行列または御神幸行列といいます。年に一度、氏神さまがお宮を出られて、氏子区域の各町内を巡り、直接氏子の人たちの生活をご覧になるためです。各町では「お旅所(たびしょ)」といって、お神輿の休憩する所を設け、そこで神さまもしばしお休みいただき、お供え物を供えて丁重にお祭りを行うのです。そして沿道の人たちも、お神輿をお迎えして普段のお礼を申し上げ、また今後のお守りをお願いするのです。
 お神輿は、神さまがお乗りになる乗りものです。普通は木製の黒塗りで、形は四角が一般的ですが、六角や八角などもあり、社殿の形をして、屋根には鳳凰(ほうおう)という飾り物をつけ、彫刻や鈴が取り付けられ、担ぎ棒を通して担ぐものです。
 古来、神道では「魂振(たまふ)り」と言って、神霊の鎮まっている御神体を振り動かすことにより神威が昂(たかま)るという信仰があります。神霊がお乗りになったお神輿を激しく揺り動かすことで、神威が増すとともに、お神輿を担ぐ氏子の人々、地域にも生命力と繁栄をもたらしてくれるのです。

十六、山車

やまぐるまって読むの?

 山車(だし)は、お祭りのとき、車の上にさまざまな飾り物をつけて曳き出すものです。また人がその上に乗って、お芝居を演じたり、踊りを踊ったり、お囃子(はやし)を奏でたりする台で、引き綱で引っ張ります。
 関東では「屋台」、関西では「だんじり」と呼んでいます。多くは、屋根の上に鉾(ほこ)や長刀(長い刀)をつけています。神さまを守る鉾や長刀には、神霊が宿っていると考えられています。それらをつけた山車は、神輿と同じく神さまの乗り物です。また、山車という名称からもわかるように、神霊は山にあるという通念によって、山の作り物としてのものとも考えられます。地方によって、山車を「やま」と呼ぶのも、そのためです。祇園祭(ぎおんまつり)の山鉾(やまぼこ)や秩父(ちちぶ)の夜祭り、高山(たかやま)祭りなどの山車が有名です。

十七、神饌(しんせん)

神さまのお食事 神饌は新鮮なものを なんちゃって
 神饌とは、神さまにお供えするお食事、食べ物のことをさします。音読して「しんせん」といい、古くは「みけ」と言いました。お祭りを行う場合に大切なことは、神さまに新鮮な状態の神饌をお供えすることなのです。
 神饌には、調理しない生のままの生饌(せいせん)と、火を加えて調理した熟饌(じゅくせん)の二つがあります。かつてはどちらも行われていましたが、現在では生饌(せいせん)をお供えすることが多く、特別なお祭りを行う神社では熟饌(じゅくせん)をお供えすることもあります。
 神饌の種類は、まず一番大事なものが米で、次に酒、餅、海の魚、川の魚、野鳥、水鳥、海藻、野菜、果物、菓子と続き、最後に塩、水などですが、お祭りの大小によって品目や数が変わります。
 お祭りでは、神さまをお迎えしたら饗応(きょうおう)といって、おもてなしをします。昔の祝詞(のりと)をみても、海川山野のたくさんの珍しい食べ物を山のように盛り上げてお供えしたことがうかがえます。

神饌品目

稲米
和稲(にごしね)、荒稲(あらしね)、玄米、白米、白飯、赤飯、強飯、麦飯、小豆飯、栗飯、粥、七草粥など
清酒、白酒、黒酒、濁り酒、甘酒、お屠蘇など
丸餅(鏡餅)、切り餅(菱餅、伸し餅など)、草餅、ちまき、団子など
雑穀
大豆、小豆、黒豆、素麺、豆腐、納豆、湯葉など
魚介
海魚、川魚、貝、塩物(塩鮭など)、干物、鮨など
野鳥(雉子、山鳥、鶏、鶏卵など)、水鳥(雁、鴨など)
猪、鹿、兎、狸など
海菜
昆布、わかめ、のり、ひじきなど
野菜
野菜全般、蒟蒻やキノコ類も入る。
生の果実、干した果物、菓子類
調味料他
塩、味噌、醤油、酢、水など
花、造花

コラム

神職(しんしょく)と巫女(みこ)

聖なる職業、あなたもなれる?

 神さまに仕え神社の社務を執る人のことを神主(かんぬし)、正式には神職(しんしょく)と呼びます。神職は、神さまと氏子との間にあって、仲を執り持つことが重要な仕事です。
 神職になるためには資格が必要です。資格には、浄階(じょうかい)・明階(めいかい)・正階(せいかい)・権正階(ごんせいかい)・直階(ちょっかい)の位があります。階位は大学の専門課程や神職養成所の課程を修了し、神社本庁の試験に合格した者や、一定の講習を受け審査に合格した者に授けられます。
 神職の役割として、宮司(ぐうじ)・権宮司(ごんぐうじ)・禰宜(ねぎ)・権禰宜(ごんねぎ)の職があります。また、神職の身分を特級・一級・二級上・二級・三級・四級に分け、この身分に応じた服装をすることになります。袴(はかま)の色が違うのはこのためです。
 また、戦前は男性の神職だけでしたが、戦後は女性も認められ、現在では多くの女性神職が神明(しんめい)に奉仕しています。
 神社の巫女の仕事は、お神楽や神事など神職の補助として奉仕します。神さまのお近くでのつとめですから、心身ともにふさわしい品位がなくてはなりません。特に必要な資格等はありません。