神社ものしり事典

御神徳や御祈祷の紹介、神道の歴史や神話などをご紹介します。

第9章 四季の行事
年中行事って、もとはお祭り

十一、お節句(せっく)

 稲作を中心に生活を営んできた日本人にとって、四季の移り変わりはとても大切なものでした。春に籾を蒔いてから秋の収穫を終え、新しい年を迎えるまでの季節の節目ごとに田の神さまをお迎えし農作業の無事や豊作を祈りました。それが五節句やお正月などに代表される年中行事です。  私たちの祖先は、家族が毎日健康でいられることを神さまのご加護と考えてきました。そして節句には、特別なお供え物をして日頃のご加護に感謝し、これからも家族が健康でいられるよう祈りました。桃の節句に飾る雛人形や、端午の節句に立てる鯉のぼりは、そんな家族の祈りを形にしたものといえました。  昔はたくさんの節句がありましたが、現代に伝わる五節句は、江戸時代に幕府がそれまでの節句をもとに公的な祝日として制定したものです。五節句には、三月三日、五月五日、七月七日、九月九日のように奇数の重なる日が選ばれています。ただし一月一日(元旦)は特別な日と考え、替わりに一月七日の人日(じんじつ)を五節句の中に取り入れています。また、これらはお正月の七草、三月の上巳(じょうし)の桃、五月の端午の菖蒲、七月の七夕の竹、そして九月の重陽の菊と、必ず季節の草や木に彩られるのが特徴となっています。

人日(じんじつ)の節句 七草粥(ななくさがゆ)

 「人日の節句」は、お正月の七草粥としてよく知られていますが、一月七日に行われる七草のお祝いです。古く中国では、元日から六日までの各日に、動物をあてはめて占いを行う風習がありました。元日には鶏を、二日には戌(いぬ)を、三日には猪を、四日には羊を、五日には牛を、六日には馬をというように占っていき、それぞれの日に占いの対象となる動物を大切に扱いました。そして正月七日目に人を占うことから「人日の節句」と呼ぶようになりました。
 日本には、もともとこの日に若菜を神さまにお供えし、それをいただいて豊作を祈る風習がありました。そこに、中国の「人日」に七草のお吸い物をいただいて無病を祈る風習が重なり、七草粥を食べるようになりました。七草粥には、寒い季節を乗り越えて芽を出す若菜の力強さをわけてもらいたいとの思いが込められているのです。

春の七草

 芹(せり)薺(なずな)御形(ごぎょう)繁縷(はこべ(ら)仏座(ほとけのざ)菘(すずな)蘿蔔(すずしろ)

上巳(じょうし)の節句 雛(ひな)まつり

 上巳の節句は、現在では雛人形を飾り、桃の花や蓬餅(よもぎもち)をお供えして、女の子の成長と健康をお祝いする「雛祭り」の行事ですが、昔、中国では三月初めの巳(み)の日を上巳(じょうし)といい、この日に川で禊をする風習がありました。日本では、田植えの前に田の神さまをお迎えするため、人の形に紙を切り抜いた「人形(ひとがた)」で体をなでて穢れを落とし、海や川に流す祓えの行事だったのです。その人形が次第に豪華になり、雛祭りが行われるようになりました。

端午(たんご)の節句 男児のまつり

 端午の節句は、雛祭りが女の子の節句なのに対し、五月五日は鯉のぼりや兜を飾って男の子の成長と健康をお祝いする行事です。
 このとき供えたり飾ったりする、菖蒲(しょうぶ)やヨモギやチマキは邪気を祓うといわれ、菖蒲を家の軒に差したり、風呂に入れたりして魔除けとしました。
 また菖蒲は「尚武」に通じるため、鯉のぼりや武者人形を飾るようになりました。
 「端午」は月初めの午の日を指し、五月に限ってはいませんでしたが、次第に五月五日を端午の節供と呼ぶようになりました。
 五月は、春から夏への季節の変わり目にあたり、疲れが出たり病気になりやすい頃です。また、田植えなど一番多忙な時期に当たるため、これにそなえて十分な鋭気を養っておく必要がありました。端午の節句には、そんな時期を乗り切る知恵が盛り込まれているのです。

七夕(しちせき)の節句 たなばたまつり

 七夕(しちせき)の節句は、七夕(たなばた)祭りのことです。願い事を書いた短冊を結んだ竹や笹が飾られる風景は、夏の風物詩となっています。七夕は、彦星と織姫が年に一度だけ天の川に橋をかけて会うことを許された日という星祭の伝説で親しまれています。こうした習俗は、奈良時代に中国から日本に入ってきたものです。
 日本では、古来お盆に祖先の御霊(みたま)をお迎えする前に、棚機女(たなばたつめ)と呼ばれる乙女が、人里離れた水辺の機屋(はたや)に籠って神さまをおまつりし、それが終わった日に、禊(みそぎ)をする行事がありました。そこに中国から星祭と乞巧奠(きっこうでん、技能や芸能の上達願うお祭り)の風習が入ってきて、七夕という節句行事へと変化してきました。七夕の次の日に笹竹を川や海に流す「七夕流し」は、心身の穢れを流すというお祓いの意味が込められています。

重陽(ちょうよう)の節句(せっく) 菊の節句

 九月九日は、五節句の最後をしめくくる重陽の節句です。この日は九という陽の数字(奇数)が重なることから、めでたい日とされました。ほかに「菊の節句」とも呼ばれ、長寿の花として大切にされてきた菊の花をお供えします。
 宮中では、菊の花びらを浮かべた菊酒をいただく節会(せちえ)が開かれ、民間でも被せ綿(きせわた)といって前夜に菊に綿をかぶせ、九日の朝に露で湿ったその綿で体を拭いて長寿を願う行事が行われました。
 現在、家庭で特別な行事を行っているところは少なくなりましたが、この時期になると各地で菊人形祭や菊花展が開かれます。