第6章 住まいに関するお祭り
昔からのしきたりには意味があります
[上棟祭(じょうとうさい )]
一、上棟祭ってどんなお祭りなの?
上棟祭(じょうとうさい)は「棟上(むねあ)げの祭り」で、単に棟上げ、または建て前ともいいます。このお祭りは、基礎工事が終わって柱が立ち、棟木(むなぎ)を上げる段階になって行われる大切なお祭りです。
お祭りには、その土地の守り神・氏神さまである「産土大神(うぶすなのおおかみ)」、家屋の守り神である「屋船久久遅神(やふねくくのちのかみ)・屋船豊受姫神(やふねとようけひめのかみ)」、工匠(大工)の守り神である「手置帆負神(たおきほおいのかみ)・彦狭知神(ひこさしりのかみ)」をおまつりします。
上棟祭の起源については平安末期から鎌倉初期にかけて始まったものとされていますが、一般庶民に普及したのは、江戸時代になってからといわれています。
建物の新築あるいは増改築などに際し、棟上げまで建築が進んだ感謝の気持ちと、棟木を支える柱をしっかり押さえ崩れ傾くことのないようにという祈り、また、竣工(しゅんこう、落成)にいたるまでのご加護を祈願するお祭りが上棟祭なのです。
上棟祭は、地鎮祭・竣工祭とならび、建築の三大祭典の一つですが、中でも、この上棟祭は木造建築の上では特に重んじられてきたお祭りです。近年、純粋な木造建築は社寺建築に見ることができますが、一般住居や鉄筋・鉄骨、ビルディングなどの建築の際にも、この伝統が強く残っています。
上棟祭は、梁(はり)の上に板などを並べて祭場を設け、まず屋上の祭場正面に上棟幣(じょうとうへい)といわれる大きな御幣(ごへい)と弓矢を飾り、その前に神籬(ひもろぎ)を設けて次のような順序で行われます。
修祓(しゅばつ) | お祓い・お清めの儀式 |
降神(こうしん) | 神さまをお招きする儀式 |
献饌(けんせん) | 神さまにお供えものをさしあげる儀式 |
祝詞奏上(のりとそうじょう) | 上棟祭を行う主旨を、神職が神さまに申し上げる儀式 |
上棟行事(じょうとうぎょうじ) | ※次頁参照 |
玉串拝礼(たまぐしはいれい) | 神職・参列者が玉串をお供えして拝礼する儀式 |
撤饌(てっせん) | 神さまのお供えものをおさげする儀式 |
昇神(しょうしん) | 神さまにお帰りいただく儀式 |
二、上棟行事ってどんなことをするの?
上棟行事には、「槌(つち)打ちの儀」「鳴弦(めいげん)の儀」「散餅散銭(さんぺいさんせん)の儀」があります。「槌打ちの儀」は、棟梁(とうりょう、大工)が「千歳棟(せんざいとう)・万歳棟(まんざいとう)・永永棟(えいえいとう)」と声を発し、棟木(むなぎ)を打ち固める儀式です。「鳴弦の儀」は、まず北東つまり鬼門(きもん)の方角に向いて、弓の弦をひき天に向かって矢を放ちます。次に南西つまり裏鬼門(うらきもん)の方角を向いて、弓の弦(つる)を地に向かってひき矢を放ちます。これは、両鬼門から諸々の災いが入らないように行う儀式です。「散餅散銭の儀」は、屋根の上より餅やお金を撒(ま)くことで、方位の神さまへのお供え物とも、また福をわける意ともいわれています。
近年は上棟祭のほかに「立柱祭(りっちゅうさい)・定礎祭(ていそさい)」または「金銀鋲締結式(きんぎんびょうていけつしき)」などを行うところもあります。「千歳棟・万歳棟・永永棟」には、千年も万年も永遠に、この棟(家)が何事もなく丈夫で、家族が幸せに過ごせるようにとの願いが込められています。
上棟祭に欠かすことができないものが「棟札(むなふだ)」です。棟札は、将来のための記録になるものです。後日、造営の日時や関係者などを知ろうとする場合、最もよい資料となります。古来より、建物の記録を残すために用いられてきました。後世への記録として、建物を文化的・技術史的に理解する有力な史料となります。
棟札の表には「奉鎮祭」、祭神名(神さまの名前)、家屋名を墨書きし、裏には上棟祭を行った年月日、奉仕神職名、関係者の名前などを墨書きします。また工事費などを記録することもあります。