神社ものしり事典

御神徳や御祈祷の紹介、神道の歴史や神話などをご紹介します。

第6章 住まいに関するお祭り
昔からのしきたりには意味があります

[建物の解体清祓(かいたいきよはらい)・その他のお祭り]

一、「解体清祓」ってどんなお祭りなの?

 建築に関するお祭りで意外に忘れがちなお祭りが、取り壊しのお祭りです。
 古くなった建物を壊すにあたって行われるお祭りが「解体清祓(かいたいきよはらい)」や「取り壊し始祭」と呼ばれるお祭りです。まず建物を祓い清め、家屋の守り神である屋船久久遅神(やふねくくのちのかみ)と屋船豊受姫神(やふねとようけひめのかみ)に対して、これまで長年にわたり、何事もなく無事に過ごさせていただいた感謝の気持ちを表すとともに、取り壊しの事情を奉告し、また、お許しをいただき、解体工事がすみやかに無事終了するように祈願するお祭りです。

二、増築・改築でもお祭りはするの?

 建築に関するお祭り全般にいえることですが、日常生活に密接に関わっている家屋や屋敷地内に手を加える造作などに際しては、それぞれをつかさどる神さまに対して、工事にいたる事情を奉告し、工事の安全はもとより平安な生活を送るための祈りを捧げるおまつりが必要となります。
 また、建物・敷地の構造物が変わるということは、その家の家相にも影響を及ぼしますので、古来より注意を要するものとされてきました。清々(すがすが)しい新生活を送るためにもきちんとしたお祓いを受けなければなりません。

三、井戸を埋める時はどうするの?

 今日では上水道の普及と地下水の衛生面からあまり使われることがなくなった井戸も、少し前までは大事に扱われていました。井戸を埋めるのにあたってはもちろんのこと、敷地内に古井戸の跡がある場合にも、工事を始めるに際しては必ず井戸埋めのお祓いを行います。長い間、水の恵みを与えて下さった水の神さま「弥都波能売神(みつはのめのかみ)・御井神(みいのかみ)」に井戸を埋める事を奉告すると共に、御神徳に感謝し、今後も災いがないよう祈願をします。
 便所の取り壊しや埋め戻しなどにおいても、同様のことがいえます。

四、「門・塀」「池」などのお祭りがあるの?

 門や塀は敷地を外界と隔(へだ)てる役割をもっております。神社でいえば鳥居や神門にあたります。取り壊しや建て始めに際しては、その事情を奉告し工事の安全などをご祈願します。
 また、邸内の池の作事や埋め戻しに対しても、水の神さまにその事情の奉告をおこない、工事の安全と家庭生活の平安をお祈りします。築山(つきやま)や庭石などの造作についても同様のことがいえます。

五、庭の木を切るときにお祓いは必要なの?

 一般に樹木や草木には、精霊が宿るとされております。樹木や岩石は、神の依り代(よりしろ)として古くから広く信仰されています。国土の大半を森林が占めている日本は、樹木と密接なつながりを保ちながら豊かな文化を育んできました。
 「木」の語源は「生(き)」で、生成繁茂する様子によるとの説もあるように、樹木は生命力を象徴するものとして大切にされてきたのです。樹木を神聖視する例は古くから世界中にありますが、それを現代にまで引き継いでいるのは日本だけかもしれません。自然環境の保護が叫ばれる今、祖先から守り伝えてきたこの誇るべき財産を、未来に確実に伝えていきたいものです。
 神社の森はもちろんのこと、屋敷内の大木などをやむを得ず伐採するときには、樹木に宿る木霊(こだま)に感謝し、鎮まっていただくために、神職によるお祓いを行います

鎮守(ちんじゅ)の森を守り、育てよう!

 森とは、たんに木が集まっただけではなく、幾種類もの樹種、野鳥や昆虫、地中の小動物群、微生物などいろいろな生き物が生きている共同体社会です。
 日本列島では約二千年前に稲作が始まりました。森を切り開き耕地整理をし、道路や集落を形成してきました。しかし、私たちの祖先はその際にも、かならずふるさとの木による森を残しました。それが鎮守の森なのです。
 「鎮守」とは、その土地の地霊をなごめ、その地を守護する神さまです。その言葉通り、鎮守の森は地震、台風などの自然災害から、私たちを守ってきました。さらに神社を守ることによって文化を伝えてきました。
 鎮守の森は強いものです。荒れ地には一気にはびこるセイタカアワダチソウなどの帰化植物も鎮守の森には侵入できません。かつては日本中の樹木を食い荒らすと恐れられていたアメリカシロヒトリも、鎮守の森には歯が立ちません。
 またスギやヒノキなどを人工的に植えた森では、常時、人間が手を入れてやらねばなりませんが、その土地本来の樹木でできた鎮守の森は、そんな必要はありません。鎮守の森は千年の森なのです。
 鎮守の森を育み、守り伝えていきましょう!